脳の仕組みと病気について
脳の仕組み
脳の特殊な位置と環境
脳は木綿豆腐位の軟らかさで、硬い頭蓋骨の中で髄液の中に浮んでおり、外力から保護されています。
大きさ:成人の正常は約1400g(女子は少し軽い)
脳の重さは表のように重い方が良いという俗説がありますが、1200g以下に異常に少ない場合を除き、異常な脳重の増加は知能と関係なく、死亡した時の脳の病変によります。
有名人の脳の重量 | 年齢 | 職業 | 脳重(g) |
---|---|---|---|
ツルゲーネフ | 65 | 詩人 | 2012 |
バイロン | 63 | 詩人 | 1891 |
カント | 82 | 哲学者 | 1600 |
構造
- 大脳:
意思、思考、感覚など、人間の高等な精神活動を司どります。 他の動物に比して、大きく(特に前頭葉)、しわが多い。 このため、表面積が著しく増加し、新聞紙1ページ大にもなります。 神経細胞は表面の厚さ5mm位の層(大脳皮質)と深部の塊としてあります。 - 脳幹:
呼吸、睡眠、意識など、人間の動物的な機能を司どります。 - 小脳:
身体の動きが滑らかになるよう調整します。 - 脊髄:
大脳からの指令により、筋肉の動かす。知覚の情報を集めます。
機能の分化、局在
- 他の内臓器と異なり、部位により機能が異なります。
言葉は左大脳の一部
思考は大脳の前頭葉の前部
運動は大脳の前頭葉の後部
知覚は大脳の頭頂葉の前部
記憶は大脳の側頭葉
視覚は大脳の後頭葉 - 個々の機能を伝える神経線維が束になって通る部位が決まっています。
脳梗塞や脳出血がおきる場所は、 手足の運動の指令を伝える神経線維が束になっている部位のため、 神経線維が切れて半身の麻痺の症状が出ます。
脳の構成要素
脳組織は電気回路に似ており、情報は神経線維を電気的興奮として伝わります。
- 神経細胞:
神経細胞から多数の突起(神経線維)が伸びており、 その先端に次の神経細胞に情報を伝えるシナプス結合があります。
人の神経細胞数は生れた時から150~200億個あり、 20才過ぎると1日に数万個減少すると言われてます。
神経細胞は一度死ぬと再生しません。
脳の機能には、神経細胞の数より神経細胞間のシナプス結合が大切です。
学習やトレーニングやリハビリにより、シナプスの機能が新生する可能性を持っています。 - 星膠細胞:
神経細胞を支え、世話をする細胞。 - 乏突起膠細胞:
神経線維を覆い、ショートしないよう絶縁する。 - 血管:
脳の動脈はバイパスが乏しいため、1本の動脈がつまるとすぐ障がいを生じ易い。
脳は、脳重が体重の2.5%でありながら、全身の15%の血液が流れ、全身の30%の酸素を消費しています。
神経細胞は全身の中で酸素不足に一番弱く、動脈がつまると3分で死にます。
脳の血管は、他の内蔵器の血管と異なり、有害物質が脳組織に入らないよう、関門(バリヤー)を持っています。
脳の病気
統合失調症とそううつ病
顕微鏡で調べても、まだ明らかな異常が見つかっていません。
認知症
認知症をきたす疾患:稀なものを除くと大きく2つあります。
- 脳血管性認知症(60%):脳の血管の動脈硬化により、小さな脳軟化症が多数生じ、脳組織がまだらに死にます。
- アルツハイマー型老年痴呆(40%):脳自身の老化現象です。
神経細胞が萎縮、減少します。
神経細胞の中に、神経原線維変化(ボディアン染色)が貯まります。
神経細胞の間に、老人斑(メセナミン銀染色、βアミロイド免疫染色、自家蛍光)が出現します。
脳卒中
- 脳軟化症(脳梗塞):脳の一部の動脈が詰まり、血液が流れなくなり、その部の脳組織が死にます。
【時間による脳梗塞の変化】
1) 発作の数時間以内は、顕微鏡でも異常を認めにくい。
2) 1日位で、むくみで腫れてくる。
3) 10日以後、死んだ脳組織が融ける。
4) 1ヵ月後、空洞になり、治る。 - 脳出血:高血圧により脳内の動脈が破れ、出血します。
脳の病気で死亡する理由
頭蓋骨の中は閉じられた腔のため、脳出血、脳腫瘍、脳のむくみなどで体積が増加すると、圧が上がります。脊髄が通る孔が圧の唯一の逃げ場で、その中に脳組織が落ちこみ、近くにある延髄の呼吸中枢を圧迫障がいして、呼吸が止まります。
アルツハイマー型老年痴呆
アルツハイマー型老年認知症の患者さんの大脳の左半球の前額断面です。右端が正中部です。下の部分の側頭葉特に内側の海馬が萎縮してます。
脳の老化の顕微鏡所見
ボディアン染色
左右に2個の神経細胞が見えます。右側の淡く見える神経細胞は正常ですが、左側の神経細胞の胞体の中には茶色に染まった棍棒状の異物が2本縦に見えます。これがアルツハイマー神経原線維変化です。
メセナミン銀染色
三角形の紫色が神経細胞です。
その間の黒く丸い構造が老人斑で、直径は0.1mmと神経細胞に比べると非常に大きいものです。
黒く染まっているものは主にβアミロイド蛋白が沈着したもので、これが神経線維を障がいします。
βアミロイド免疫染色
βアミロイド蛋白に対する抗体を用いて免疫染色すると、老人斑のアミロイドの部分が茶色に染まって見えます。
自家蛍光
老人斑のアミロイドは自家蛍光を持ち、何も染色しなくとも強い光を当てると自然に青い蛍光を発します。
黄色の点々は老化により蓄積したリポフスチン顆粒です。