院長の絵本紹介

2022年07月11日
院長の絵本紹介
皆さんこんにちは。
さいがた医療センター院長の佐久間寛之です。
きょうは私から、本の紹介をしたいと思います。
皆さんは、ディック・ブルーナという作家をご存知でしょうか。
おそらく、ほとんどの方は「知らないなあ」と思われるでしょう。
でも「ミッフィーちゃんを作ったオランダの絵本作家」と言えば、みんな知っているのではないでしょうか。
ご存知のとおり、ミッフィーは単純な線と色で描かれたかわいらしいウサギのキャラクターです。
でも、ミッフィーに代表されるディック・ブルーナの作品は、実は緻密な計算に基づいているのです。
たとえば、ディック・ブルーナの絵本は一辺15センチの正方形で描かれています。これは、子どもが手に取りやすくイラストの収まりが良く、メッセージがビビッドに伝わるよう計算されたサイズです。
またディック・ブルーナの絵は、基本的に赤、青、黄、緑の4色、それに黒の濃淡と茶色の6色だけでできています。それぞれの色には意味があり、例えば赤には基本的な愛情、青には寂しさや広がりを与える色としての意味が込められています。
キャラクターの描線は太く丸っこいですが、決して単純な線ではなく、よく見ると少し曲がっていたりギザギザがあったりします。
キャラクターがたいてい正面を向いているのは、その方が絵本を見る子どもたちに訴える力が強いからです。

ディック・ブルーナはもともと装丁デザイナーとしてキャリアをスタートし、その後絵本作家として世界的に有名になりました。想定デザイナー時代の彼の作品を見ると、単純な線と色で親しみやすい表現をする、という基本がすでに完成していたことが分かります。

彼は絵本を通じて、さまざまなことを訴えました。
きょう紹介するのは「うさこちゃんシリーズ」の中の2作、「うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん」と「うさこちゃんとたれみみくん」です。
前者は、身近な人の死をあつかった作品です。うさぎのうさこちゃんは、ある日突然、一緒に住んでいただいすきなおばあちゃんを亡くします。うさこちゃんがその死にどう向き合うかが、この作品に描いてあります。
もう一つの作品「うさこちゃんとたれみみくん」は、差別を描いた作品です。うさこちゃんが通う、耳がピンと伸びたうさぎの学校に、ある日片方の耳が垂れた子うさぎが転校します。学校のみんなは、ひとりだけみんなとちがう耳を持つ彼を「たれみみくん」と呼びますが、うさこちゃんはそのことに疑問を感じます。
死と差別。どちらも重いテーマです。ですがディック・ブルーナは逃げません。しっかりとそのテーマに正面から取り組み、読者である子どもたちに考えることを求めます。そしてどちらも考えさせられるテーマですが、きちんとハッピーエンドになっています。
ディック・ブルーナは、子ども向けの本は基本的にハッピーエンドであるべきだと考えたそうです。私も同感です。
人によっては、2歳児、3歳児が手に取る本に死や差別などの重いテーマは不適切と考えるでしょう。でも、私はその時期だからこそ触れるべき、たいせつなテーマだと思います。

絵本は、子どもがいちばん最初に手に取る本です。
その本に書いてあることは、子どもが将来どう育ち、どう考えるかに大きな影響を与えます。
ディック・ブルーナは、子どもたちに勇気、人を思いやるあたたかさ、人生の楽しさと豊かさ、ユーモアを伝えようとしました。同時に、人の死や、心に潜む差別心からも目をそむけない大人になって欲しい、そんな願いを作品に込めていたように思います。

というわけで皆さん、機会があればぜひディック・ブルーナの絵本を手に取ってください。
2分で読めてしまいますし、すてきなアートブックとしても楽しめますよ。